日本ワインのイベントを行っていると、よく聞かれる質問があります。
「このワインは、魚に合いますか?」
「魚には白ワイン」とよく言われますが、白ワインなら必ず合う、というわけではありません。
白ワインでも、魚介と合わせたときに生臭さを感じることがあります。
では、なぜ生臭くなるのか。
調べてみると、カギは「赤か白か」ではありませんでした。
🐟 結論:ワインの鉄が、魚介の脂の酸化を進める
先に、私の覚え方を書いておきます。
ワインの微量な鉄 → 魚介の脂の酸化を進める → 生臭く感じる成分が増える
この一行です。※1
🔬 2009年、日本のワイン会社の研究
この仕組みを確かめたのが、2009年に発表された、日本のワイン会社の研究チームの論文です。※1
- 赤ワイン38本、白ワイン26本を用意する
- 干した貝柱と一緒に味わって、生臭い後味の強さを点数にする
- ワインの成分を分析して、点数との関係を調べる
その結果、ワインの鉄の量が多いほど、生臭い後味が強くなることが分かりました。※1
さらに、
- ワインに鉄を加えると、生臭さが強くなる
- ワインの鉄を働かないように封じると、生臭さが弱くなる
ことも確かめられています。※1
生臭さのもとは、魚介の脂からできる、においの成分でした。※1
日本語の解説では、鉄(二価鉄)が1mg/Lあたりを超えると、生臭みを感じやすくなると報告されています。※2
🍇 ワインの鉄は、どこから来る?
「ワインに鉄」と聞くと、少し意外に感じませんか。
私も、ワインと鉄は結びついていませんでした。
ここでいう鉄は、「鉄分が豊富」という意味ではなく、ワインの中にごく微量に含まれている鉄のことです。
由来は、ひとつではありません。
- ブドウそのものに由来するもの
- ワインを造る装置から入るもの
などが挙げられています。※2
昔はコンクリートタンクなどから鉄が入ることも多かったそうですが、ステンレスタンクが一般的になったことで、そうした混入は減っているそうです。※2
そしてワインの鉄の量は、ワインの種類やブドウ品種で決まるものではないとされています。※2
つまり、ラベルを見ても分からない、ということです。
🍷 「赤か白か」では決められない
この研究では、赤ワインも白ワインも一緒に調べられています。※1※2
生臭さと関係していたのは、色ではなく、鉄の量でした。
「魚には白」という言葉だけでは、決められないわけです。
🥂 白ワインには、もうひとつの要因も
さらに2010年の研究では、白ワインとするめを合わせたときの、別の要因が報告されています。※3
ここで関わっていたのは、ワインに使われる亜硫酸(酸化防止剤)。
魚介のDHAを加えて調べたところ、亜硫酸があると、苦味や、生臭い香りに関わる成分が増えやすいと報告されています。※3
同じように調べた日本酒では、その増え方は、白ワインほど大きくなかったそうです。※3
「和食には日本酒」と言われるのには、こんな理由もあるのかもしれません。
🐠 脂の少ない魚なら、生臭くなりにくい?
ここで、私が気になったのがこれです。
「脂の酸化が原因なら、脂の少ない魚は大丈夫なの?」
調べてみると、脂は関係する。でも、脂が多い=必ず生臭くなる、ではないようです。
魚介の脂には、EPAやDHAのような、酸化しやすい脂肪酸が含まれています。
先ほどの研究で注目されていたのも、DHAでした。※3
つまり、脂の「量」だけでなく、どんな脂を含んでいるかも関係するということです。
🦪 牡蠣で生臭く感じるのも、同じ理由?
牡蠣とワインで、生臭さを感じたことがある方もいるかもしれません。
牡蠣は「脂たっぷり」という印象はありませんが、脂はちゃんと持っていて、その中にはEPAやDHAも含まれています。※4
なので、牡蠣とワインでも、似たような生臭さが起こる可能性はあります。
ただし牡蠣は、もともと海の香りが強い食材です。
「牡蠣で生臭く感じた=全部、脂の酸化のせい」とまでは言い切れないと、私は思っています。
📊 だから、実際に食べて比べる「マリンマッチ」
鉄の量も、亜硫酸の量も、ラベルには書いてありません。
結局のところ、実際に食べて、飲んでみるのが一番です。
そこで私は、魚介とワインの相性を、自分で試して記録することにしました。
名前は、マリンマッチ(魚介相性度)。
「魚介とワインを合わせたとき、生臭さが気にならず、おいしく食べられたか」を、実際に食べて比べる、私の独自の指標です。
試す料理は、家庭で実際に食べそうなものにしています。
- 白身魚:シンプルな調理
- 青魚:みぞれ煮/トマト煮
- 牡蠣:酒蒸し(味付けなし)
牡蠣は、最初はバター焼きを考えていました。
でも、バターの香りが牡蠣の風味を覆って、生臭さを感じにくくなるかもしれません。
そこで、牡蠣そのものとワインで比べられるように、味付けなしの酒蒸しにしました。
酒蒸しに使うお酒も香りに影響するので、毎回同じお酒を、同じくらいの量で使います。
📝 「生臭くない」と「おいしい」は別
実際に試してみて、もうひとつ分かったことがあります。
生臭くならなくても、一緒においしいとは限らない。
「魚に合う白ワインを探せ」第1弾のナイアガラでは、魚が生臭くなることは一度もありませんでした。
それでも、ワインが料理の味を消してしまう組み合わせはありました。
だからマリンマッチでは、「生臭くないか」だけでなく、「一緒に食べておいしいか」も見ていきます。
何本かたまったら、ワインごとの結果を並べた比較ページも作る予定です。
「魚には白」だけではない、実際に食べて確かめた結果を、少しずつ増やしていきます。
📚 出典
- ※1 Tamura, T. et al. “Iron Is an Essential Cause of Fishy Aftertaste Formation in Wine and Seafood Pairing.” Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2009, 57(18), 8550–8556.
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jf901656k - ※2 田村隆幸「料理とワインの相性からの製造技術へのアプローチ」生物工学会誌 第90巻第5号(2012年)231–234頁
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9005/9005_tokushu_2.pdf - ※3 Fujita, A. et al. “Effects of Sulfur Dioxide on Formation of Fishy Off-Odor and Undesirable Taste in Wine Consumed with Seafood.” Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2010, 58(7), 4414–4420.
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jf9041547 - ※4 文部科学省「食品成分データベース」魚介類/<貝類>/かき/養殖/生
https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=10_10292_7
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※本記事で紹介している研究の内容は、上記の出典にもとづいています。
※味の感想は、すべて筆者個人が実際に飲んで感じたものです。
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