「そのままでいい」が一番むずかしい(幽霊スタンプができるまで)

幽霊と骸骨と付喪神を描こうとして困っているロボットのイラスト AI実験室
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前回、AIに描かせた猫の絵柄が変わってしまった話を書きました。

体型を直して、目を直して、線も色も直して。それでも「何か違う」が消えませんでした。

その正体が、やっと分かりました。

ひげでした。

🐱 一期にはひげがない

うちの猫をモデルにしたスタンプには、2匹のキャラクターがいます。

  • 一期:ハチワレ・丸い
  • :キジトラ・細長い

拡大して見比べて、気づきました。

ひげ
一期1本も描かれていない
茶色く細い線。しかも顔の輪郭からはみ出している

そしてAIが描いたものは、2匹ともひげがありませんでした

楽のひげが、消えていたんです。

細い線なので、たぶん「重要ではない情報」として省略されたのだと思います。

でも、違うんです。ひげは猫の記号そのものです。猫といえば、ひげです。

それが消えると、楽の顔が人の顔に見えてきます

理由を考えて、腑に落ちました。

人間の顔は、目と鼻と口でできています。猫からひげを取ると、残るのが目と鼻と口だけになる。だから脳が「人の顔」として処理してしまう。

一期はひげがなくても平気なんです。顔の黒い模様が情報を補ってくれるので。でも楽は模様が額の縞だけなので、ひげが抜けると一気に人になる。

体型でも目でもなく、ひげ1本。言葉にしていなかったから、伝わっていませんでした。


👻 学んだことを、次の作品で試しました

そこで、まったく別のシリーズを作ってみることにしました。

今度は幽霊です。

登場するのは3体。それぞれ、江戸時代の絵に元ネタがあります。

キャラ元ネタ
長い黒髪の幽霊円山応挙の幽霊図(足のない幽霊の原型とされます)
骸骨歌川国芳「相馬の古内裏」の巨大骸骨
黒くて丸いの伊藤若冲の付喪神図(道具のお化け)

怖い見た目のキャラクターが、優しいことや日常的なことを言う。それだけのスタンプです。

前回の反省をふまえて、先に基準画像を用意してから始めました。AIに新しく描かせるのではなく、既にあるスタンプから切り出して作った参照シートです。

準備は万全のはずでした。

💀 それでも、骸骨が巨大化しました

最初に出てきた骸骨は、家より大きかったです。

背景に家並みが小さく描かれていて、そこに巨大な骸骨が座って団扇で扇いでいる。

間違いではないんです。元ネタの「相馬の古内裏」は、御殿より大きい骸骨の絵ですから。元ネタとしては、むしろ正確でした。

ただ、スタンプの中で1体だけ巨大なのは困ります。

私がサイズを指定していませんでした。指定しなかったところに、強いイメージが勝手に入り込んできた形です。

😇 「細く」と言うと、消える

ここからが本題です。

目の描き方を直そうとして、何度も失敗しました。

こう言うとこうなる
「体を細く」ちくわのように引き伸ばされる
「瞳孔を細く」黒目そのものが消える
「気だるい表情に」生気がなくなって不気味になる

全部、私の言い方が悪かったんです。

片側しか言っていませんでした。

「細く」には上限がありません。だから限界まで細くなる。「気だるく」も同じで、突き詰めると死んでいるように見える。

直し方は簡単でした。両端を言えばいいだけです。

❌「瞳孔を細くしてください」
⭕「瞳孔を細くしてください。ただし消さないでください

❌「気だるい表情に」
⭕「気だるい表情に。ただし健康です。衰弱させないでください

これで一発で決まりました。

AIには「ほどほど」がありません。どこまでやるかを言うだけでは足りなくて、どこで止まるかを言う必要がある。

✍️ 最後はフォントでした

絵が固まって、いざ文字を入れたら、また違和感が出ました。

絵は江戸の幽霊画なのに、文字だけが現代的でポップだったんです。丸ゴシックの太字。よくあるスタンプの文字。

明朝体に変えて、色を墨色にしたら、一枚の絵として揃いました。

明朝体は縦線が太く横線が細い。あれは筆の名残なんですね。だから墨で描いた絵と馴染む。

🚫 そして「成仏」で引っかかりました

完成して、申請しました。

そこで受けた指摘が、これです。

「成仏」という言葉が、宗教・文化に関する規約に触れる。

販売地域を日本限定にするよう案内されました。

言われてみればそうです。「成仏」は仏教の言葉で、日本語では「満足した」「片がついた」くらいの軽い意味で使いますが、そのまま他の文化圏に持っていける言葉ではありません。

結論としては、日本限定のまま出すことにしました。

セリフは全部日本語なので、実害はほとんどありません。それに「成仏しました」を別の言葉に置き換えたら、このスタンプの面白さがなくなります。

ここで面白かったのは、詰まった場所がAIではなかったことです。

AIは「かわいくしないでください」を理解してくれませんでした。人間の審査は「成仏」を見逃しませんでした。引っかかる場所が、まったく違います。

📝 分かったこと

  • 言わなかった細部は、消える(ひげ)
  • 逆に、指定しなかったところには強いイメージが勝手に入る(巨大骸骨)
  • 片側だけ言うと必ず振り切れる(細く→黒目が消える)
  • だから「どこで止まるか」を言う

いちばん時間がかかったのは、猫のひげでした。

そんなものは、わざわざ言葉にする必要がないと思っていたんです。猫にひげがあるのは当たり前ですから。言語化できなかったのではなく、言語化する必要があると思っていなかった。

AIに何かを頼むときに、いちばん抜けるのはそこかもしれません。


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ちなみに、さきほどの「成仏」で日本限定になったのは、こちらのほうです。「成仏しました」が入っているので🐾


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